シー・シェパードの正体

本書は「シー・シェパード」(以降SS)の問題を捕鯨国と反捕鯨国の間にあるいわゆる「捕鯨問題」とは切り離し、日本が「エコテロリスト」とどう戦うかという問題だと説く。
ポールワトソンの人となりを生い立ちから検証し、彼がなぜグリーンピースと袂を分かち、SSを立ち上げたか、なぜ捕鯨、それも日本の調査捕鯨を執拗に狙うのか。その背景を明らかにしていく。
世界中にSSの支持者がいる。特にハリウッドには多い。SSがアメリカで行うキャンペーンは極端に少ないのに、アメリカに本拠地を置いている理由はアメリカが税法上の特典を受け易いからだという。アメリカでは政府や企業が携わらない市民社会活動には、税の減免措置を受けられる制度がある。SSが減免措置を受けるほか、SSに寄付をする個人やスポンサー企業も税控除の対象となる。ハリウッドで多くの寄付が集まるのはそういった背景もあるという。(勿論それだけではない)ワトソンはそういった事情を最大限に利用するためにアメリカに本拠地を置いている。
日本の調査捕鯨を「違法」と言い続けることでよく知らない人は日本が違法に調査捕鯨をしていると信じ込んでしまう。実際は国際捕鯨委員会で認められている。ワトソンのメディア戦略はこのような効果を狙ったものが多い。
著者はワトソンが類まれな戦略家であり、冷静な頭脳を持ったカリスマ性のあるリーダーであることを認め、それに対抗するためには余程戦略を練らなければならない。と至ところで警鐘を鳴らしているように感じる。
オーストラリアがなぜSSを支持するのか。ひとつはホエールウォッチングがオーストラリアの貴重な観光資源になっていること。もうひとつは南極海がオーストラリアにとって「裏庭」のような存在であること。そこへ日本の調査捕鯨が「勝手に」乗り込んできて貴重な観光資源であり可愛い友達でもある鯨を捕獲する。というのがオーストラリアの人の普通の感覚だという。政治家もそれを受けて日本の調査捕鯨を目の敵にする。
アニマルプラネットの「Whale Wars」の大ヒットでSSに集まる寄付は年々増加している。資金が潤沢になったSSは装備も充実し、妨害活動を行う船も増やしている。このままでは日本の調査捕鯨は立ち行かなくなってしまう。調査捕鯨に関わる人は危機感を募らせている。
著者はSSの正体を冷静に分析することに勤め、その対策については述べていない。政府の対応についても是とも非とも言いはしない。それがポールワトソンの正体を際立たせることに成功しているように思う。この本を読んでSSのポール・ワトソンが本気で鯨を守ろういう固い信念を持っていることがわかる。そのためにあらゆる手段を講じ、言葉巧みに信者を増やし、日本を追い込んでいく。それが又お金を生むからである。だからこそ、その場しのぎの対応ではどうにもならないことも強く感じる。個人的には日本の政府が国の食文化や産業を守るため、そして何より日本国民の尊厳を守るために情報を収集し、戦略を練り、粘り強くSSに対抗して欲しいと思う。捕鯨やイルカ漁に批判が集まることで日本人が罪悪感を持つようなことがあってはならない。


シー・シェパードの正体
佐々木 正明著
扶桑社新書
ISBN : 978-4-594-06214-9